冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
ふん、と鼻で笑うグレイスは、脈を速めるフィリーナからあっさりと離れる。
眩暈を覚えて一歩身体が後ろへふらつくと、足元の水がぺちゃりと音を立てた。
「何か気になることがあるなら、僕に聞け。イアンもダウリスも、国の内情を話していい判断を自ら下せる立場にない。忠実な家臣を困らせてくれるな」
「え……は、はい……」
「お前が国を大切に思ってくれているのはわかる。
いや、兄が守ろうとしている国を、と言った方が正しいか」
口元に笑みを咥えて、グレイスは背を向けた。
「本当に生意気な娘だ。
……けれど、そういう娘の方が、王を支えるのには相応しいのかもしれないな」
「え?」
「執務に戻る。
メリーの引受先の公爵家へ送る、嘆願書を作成しなければならない」
「それでは、メリーの処分は……」
「ウィリアム公爵家に、家政婦として下ってもらう。今後生涯王宮への出入りを禁じた上でな」
「そうですか、……よかったです」
「あそこまで暴走するとは思わなかった……お前に手を上げさせるつもりはなかった。僕の甘さが招いたことだ。メリーにも申し訳ないことをした」
眩暈を覚えて一歩身体が後ろへふらつくと、足元の水がぺちゃりと音を立てた。
「何か気になることがあるなら、僕に聞け。イアンもダウリスも、国の内情を話していい判断を自ら下せる立場にない。忠実な家臣を困らせてくれるな」
「え……は、はい……」
「お前が国を大切に思ってくれているのはわかる。
いや、兄が守ろうとしている国を、と言った方が正しいか」
口元に笑みを咥えて、グレイスは背を向けた。
「本当に生意気な娘だ。
……けれど、そういう娘の方が、王を支えるのには相応しいのかもしれないな」
「え?」
「執務に戻る。
メリーの引受先の公爵家へ送る、嘆願書を作成しなければならない」
「それでは、メリーの処分は……」
「ウィリアム公爵家に、家政婦として下ってもらう。今後生涯王宮への出入りを禁じた上でな」
「そうですか、……よかったです」
「あそこまで暴走するとは思わなかった……お前に手を上げさせるつもりはなかった。僕の甘さが招いたことだ。メリーにも申し訳ないことをした」