冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 やはりフィリーナを狙っていたのはメリーだったのだ。
 彼女もまた、グレイスを想っていたが故の過ちを犯してしまったのだ。

「メリーには、グレイス様から慰めのお言葉を掛けてさし上げてくださいませ」
「ああ、そのつもりだ」

 もうこちらを振り返らない後ろ姿は、太陽の光に向かって、堂々した歩みを見せてくれた。
 グレイスも大いに反省している。
 きっとディオンも、その気持ちを汲んでくれるに違いないと、フィリーナは心の中で思う。

 ――だから、早く……
 ……お目覚め下さいませ、ディオン様……

 永遠を誓った心がグレイスに反応してしまったことを反省しつつ、あらためてディオンへの自分の想いが強いことを胸に刻む。
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