冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
*
「フィリーナ」
「はい」
翌朝、朝食を済ませた王子二人が広間を出られるとき、グレイスは入り口そばに待機していたフィリーナに声を掛けた。
いつもとは違う光景に、ちらりと寄こされたディオン王太子の視線が気になりはしたものの、フィリーナの意識は、優しい笑みを携えたグレイスに囚われた。
「あとでお茶を頼む」
「はい、かしこまりました」
「メリー、これにもコーヒーの淹れ方を教えてやってくれないか」
「承知いたしました」
頭を下げるメリーの背中の向こうで、広間を出ていくグレイスが柔らかく笑んだ目配せをくれる。
名前を呼ばれただけでも胸は高鳴っていたのに、突然の視線の逢瀬に、鼓動は盛大に弾けた。
きゅっと喉の奥が締まり、途端に顔は上気する。
――グレイス様……
コーヒーの淹れ方を教わるということは、これからもフィリーナがグレイスにお茶を持っていくということだ。
今までメリーがやっていたことを、自分が引き受けることになっただけなのに、なんだかグレイスにとっての特別な存在にでもなれたような気がして、気持ちはたちまちのうちにふわふわと浮かれた。
「フィリーナ」
「はい」
翌朝、朝食を済ませた王子二人が広間を出られるとき、グレイスは入り口そばに待機していたフィリーナに声を掛けた。
いつもとは違う光景に、ちらりと寄こされたディオン王太子の視線が気になりはしたものの、フィリーナの意識は、優しい笑みを携えたグレイスに囚われた。
「あとでお茶を頼む」
「はい、かしこまりました」
「メリー、これにもコーヒーの淹れ方を教えてやってくれないか」
「承知いたしました」
頭を下げるメリーの背中の向こうで、広間を出ていくグレイスが柔らかく笑んだ目配せをくれる。
名前を呼ばれただけでも胸は高鳴っていたのに、突然の視線の逢瀬に、鼓動は盛大に弾けた。
きゅっと喉の奥が締まり、途端に顔は上気する。
――グレイス様……
コーヒーの淹れ方を教わるということは、これからもフィリーナがグレイスにお茶を持っていくということだ。
今までメリーがやっていたことを、自分が引き受けることになっただけなのに、なんだかグレイスにとっての特別な存在にでもなれたような気がして、気持ちはたちまちのうちにふわふわと浮かれた。