冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 フィリーナは、自分が淹れたコーヒーを持っていき、グレイスの部屋で話の相手をする。
 レティシア姫の話をするときのグレイスの表情がとても幸せそうで、フィリーナまでも気持ちが温かくなっていた。
 二人の仲を知ってしまったときには、どうなることかと思ったけれど。
 コーヒーが好きだとか、チェスが得意なのだとか。
 グレイスの話は、もっぱらレティシア姫のことばかり。

 美しい容姿に一目惚れしたことは言うまでもなく、お互いのことを知るうちに次第に惹かれ合っていったのだと、グレイスは顔をほころばせて語ってくれた。
 ただ、初めて会ったときにはもうすでに兄ディオンとの婚約が決まっていたことが、唯一彼の表情を曇らせた話だった。

 これまではそうやって軽々しく愛する人の名前を出すことすらできなかったであろう辛さを、相づちを返ししていることで、多少なりとも軽くしてあげられているのかもしれないと、フィリーナは自負していた。
 そう思うと、グレイスの笑顔を見られていることが本当に特別なような気がして、心が高揚した。
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