冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
*


 それから数日も経たないうちに、その日は訪れた。
 今日の仕事は、メリーに事情を話し引き継いでもらうようにした。
 朝食のあと馬舎まで来るように言われ、一着しかない外出用のスカートも、裾のほつれがないかどうかを念入りに確認して仕度を済ませる。
 馬舎に着くまでに一度窓の硝子で気持ち程度に身なりを整えてから、青空の下、フィリーナは、すでに白馬を引いていたグレイスに駆け寄った。

 いつもの煌びやかな刺繍の施されたものとは違い、グレイスは今日とてもゆったりとした出で立ちだ。
 とはいえ、革製の胴衣は上等なものだとわかるし、編み上げの靴もしっかりとした造りをしている。
 護身用の剣こそ腰元で仰々しく威圧を放っているものの、つまり、……グレイス王子は何を着ていても麗しいことに変わりはないのだ。
 こんなに見すぼらしい田舎娘が隣に立っているなんて、顔を上げられないほど恥ずかしいと思った。
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