冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 ――私もレティシア様のような、綺麗なレースのあしらわれたドレスでも着ていれば……

 わかってはいたけれど、いくら裾のほつれごときを気にしたところで、到底グレイス王子の隣に見合うような人間ではないのだと、フィリーナは自分の身の丈を思い知らされた。

「山の向こうにある湖畔にまで行ってみようと思っている。イアンがその辺りまでなら行っても構わないと」
「あまり遠くまで行かれますと、御身に危険が及びますゆえ」

そばで別の馬の用意をされているイアンは、今回護衛として一緒に同行する。

「今日はよろしくお願いいたします」
「ああ」

 二人に頭を下げると、柔らかく微笑むグレイスは目を細めた白馬の眉間を擦った。
 くりっとしたつぶらな瞳と目が合い、フィリーナが「お前もよろしくね」と微笑みかけると、黒みがかった鼻筋がフィリーナにすり寄ってきた。

「サラはお前が気に入ったようだ」
「本当でございますか? ありがとう、サラ」

 動物といえど、好かれるのは嬉しいものだ。
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