冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「さあフィリーナ。こちらへ」

 掌を差し出されて、恐縮ながらもおずおずとそこに自分の手を添える。
 生まれてこの方、男性にこんな風にもてなされたことはもちろんないし、御手に触れるなんてもってのほか。
 震えている気がする手をそっと取ってくれる温かさに、胸はときめきでいっぱいに膨らんだ。

「気をつけて」
「はい……」

 高さを持った踏み台に引き上げられ、鐙(あぶみ)に足をかけると、後ろから腰を抱えられてふわりと視界が浮いた。

「きゃっ」
「鞍(くら)にまたがって、しっかり掴まるんだ」
「は、はいっ」

 下から腰を押し上げるようにフィリーナを抱えてくれるグレイスの掌。
 乗馬させるためだとわかっているのに、恥ずかしさが心臓を大爆発させた。
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