冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「もうすぐそこだ」
間もなく到着という声に、ようやくぼんやりとしていた頭が目を覚ます。
夢見心地を後押しする馬の揺れに、これまで通ってきた道のりの景色がはっきりと思い出せない。
ずっとグレイスに話しかけられていたような気もするけど、きちんと返事をしたのか定かではなかった。
「見えてきた」
「……わ……」
林道の奥に見えたまばゆさの中に飛び込むと、ぱっと目の前に開けたのは、きらきらと陽の光を受ける湖。
木々に囲まれた透き通った緑の彩りが、波打つ水面に広がっていた。
「……綺麗……」
思わず感動を零してしまうほどの景色は、さっきまでとはまた違う夢心地を誘う。
奥にある絹糸のような数本の滝が、さらさらと心地の好い音色を奏でていた。