冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「こういうところは退屈しないか?」
「はい、とても心が洗われるようです」
「そうか」

 美しい景色に目を細めているグレイスを、斜め後ろからゆっくりとついて行く。
 うかがう表情はとても優しく、愛する人にもこの景色を見せてあげたいのだという思いが伝わってくる。
 自分なんかが下見にお供しなくても、この場所なら誰でも心を奪われそうなものだ。

「レティシア様も、きっと喜ばれると思います」
「そうか。ならば今度ここに連れてきてやろう」
「はい、ぜひそうなさってください」
「ああ」

 そのときを思い浮かべているであろうとても幸せそうな横顔に、ほんわかと胸が熱くなる。
 だけど……
 熱くなる胸のすぐそばで、つんと沁みるような気持ちは何なのだろうと、フィリーナは心の中で首を傾げる。

「お二人には、幸せになっていただきたいのに――……」
「うん?」

 思わず苦しい心から押し出される言葉。
 きょとんと振り向いてくるグレイスに、フィリーナははっとした。
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