冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「あっ、わ、わたくしはまた余計なことを……っ!」
「いや、構わない。続けて」

 立ち止まり身体ごと向き直ってくる碧い瞳。

「フィリーナ。お前は、僕とレティシアとの幸せを願ってくれるのか」

 誰にも認められることのない想いを受け入れる私の言葉を、グレイスが欲しがっているのがフィリーナにはわかった。

「彼女は本当に不憫なのだよ。
 兄は、……レティシアに関心を示さないらしいんだ。
 会いに来た彼女に聞くのは、いつだって国の情勢のことばかりなんだそうだ。あくまで彼女との結婚は、国のためだと言わんばかりにね。
 これから嫁いでくる相手のことなど、これっぽちも知ろうとはしていない。そんな心のないような兄に、レティシアがめとられるのかと思うと……」

 愛しい人を思う心が痛いほどに伝わってくる。
 なのに、かすかな違和感がフィリーナの頭を過った。
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