冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「あ、あのときの、ことは……っ」
「グレイスとは、仲たがいでもしたのか?」
「え……っ」
罪悪感に塗れながらも考えていた言い訳は、言い始める前に用意していた答えにそぐわない質問を被せられた。
「今朝は、君に声をかけていなかったようだった」
仲たがいというほど、グレイスとフィリーナの関係は親密なものではない。
使えない使用人は、コーヒーを淹れる資格すらないのだから。
あの甘い時間は夢だったのだと思おうとしていたのに、ディオンがそれを現実だったのだと突きつけてくるから、まだしぶとく居座る想いの欠片で胸を痛めつけた。
「些細ないさかいであるなら、君が折れてやってくれないか。少し下手に出てやればあれも……」
「ちっ、違うんです……っ!」
明らかな誤解に進む話を遮る声は、必要以上に大きくなってしまった。
現実とかけ離れた誤解は、フィリーナの心をえぐるだけだったから。
「も、申し訳ございません……ですが、本当にグレイス様とは、そのような関係ではございませんので……」
ふむ、と軽い溜め息を吐くディオン。
「君の沈んだ顔は、そうは見えなかった。辛くてたまらないと書いてあるようだったが」
「!」
はっとして口元を手で覆っても、真っ赤に染まった顔はディオンには丸見えだ。
「グレイスとは、仲たがいでもしたのか?」
「え……っ」
罪悪感に塗れながらも考えていた言い訳は、言い始める前に用意していた答えにそぐわない質問を被せられた。
「今朝は、君に声をかけていなかったようだった」
仲たがいというほど、グレイスとフィリーナの関係は親密なものではない。
使えない使用人は、コーヒーを淹れる資格すらないのだから。
あの甘い時間は夢だったのだと思おうとしていたのに、ディオンがそれを現実だったのだと突きつけてくるから、まだしぶとく居座る想いの欠片で胸を痛めつけた。
「些細ないさかいであるなら、君が折れてやってくれないか。少し下手に出てやればあれも……」
「ちっ、違うんです……っ!」
明らかな誤解に進む話を遮る声は、必要以上に大きくなってしまった。
現実とかけ離れた誤解は、フィリーナの心をえぐるだけだったから。
「も、申し訳ございません……ですが、本当にグレイス様とは、そのような関係ではございませんので……」
ふむ、と軽い溜め息を吐くディオン。
「君の沈んだ顔は、そうは見えなかった。辛くてたまらないと書いてあるようだったが」
「!」
はっとして口元を手で覆っても、真っ赤に染まった顔はディオンには丸見えだ。