黒き魔物にくちづけを
「大丈夫よ、大丈夫だから、落ち着いて……っ!」
たまらずエレノアはそう口にして、ラザレスに覆いかぶさるように抱きしめていた。──見ていられなかったのだ。
「……っ!」
覚悟はしていたが、すぐにラザレスは前後不覚のまま激しく抵抗した。下から突き上げられるようにされて、たまらず彼女の身体が傾いだ。
魔物の腕は彼女の身体が緩んだ一瞬の隙を逃さず、容赦のない力で肩を掴んで引き剥がしにかかった。エレノアはいとも容易く放り投げられ──衝撃に備えてぎゅっと目を瞑った刹那、しかし彼女は背後からの加勢によってラザレスの方へと押し戻された。
「かしら!かしら!それえーのあ!」
ビルドだった。いつの間にやら巨大化したカラスは、いつもより低くなっただみ声を響かせてラザレスに叫ぶ。そうしながらエレノアが押さえていない魔物の下半身の上に降り立ち、押さえるのを手伝ってくれる。
「ありがと、ビルド!」
横目でビルドにお礼を言うと、カラスは魔物の身体を押さえながら少し焦った様子で言った。
「えれぬー、シューチュー!かしら、チがたりなくなったら、タイヘン!」
「ええ、わかったわ……!」
先ほど巻いたばかりの包帯のどれもが赤く染まっているのを見て薄々は勘づいていたが、どうやら既に傷口が開いてしまっている。ただでさえ傷を負って沢山血を流しているのだから、これ以上はきっとまずい。
抵抗されても無理矢理にでも動きを封じなければと、エレノアはもがく両手を自分のそれで掴んで体重をかけて縫い止めた。それでもじたばたもがく胴体の上に馬乗りになって、多少乱暴にでも動きを止める。
「落ち着いて、ラザレス……!」
──無我夢中だった。理性より本能で動いていた。苦悶の表情を浮かべて、まだ抵抗するのかかぶりを振るラザレスの唇を、エレノアは自分自身の唇で塞いでいた。