現状報告!オタク女子ですが、エリート上司に愛されてます。
その後、牧原さんと香島くんが出勤してきて、普段通りの空気が流れる。

志木さんも、さすがに牧原さんたちもいる中で、私のことを無視したりはしなかった。
口数は少なかったし、そっけなかったけど、彼はもともとクールな人だし、職場ではとくにそうだ。だから牧原さんたちも私と彼の様子の異変にはなにも気がつかなかった。

だけど、謝ることはまだできずにいた。
それどころか、ちゃんとした会話もできていなかった。

気がつけば、もうお昼だ。


私がお昼休みから営業室に戻ってしばらくすると、志木さんがお昼休憩に入った。

代理はまだ出勤してこないから、今営業室にいる融資課の社員は、私と牧原さんと香島くんだけだ。


デスクで仕事をしていると、ひとりのお客様が融資窓口へやってきた。


「いらっしゃいませ」

私は席を立ち、窓口に向かう。


そのお客様は、私と同い年くらいの、キレイな女性だった。
透き通る肌、長いまつ毛、腰まである黒のロングヘアーは、どことなく儚げな印象を受ける。


「あの……?」

なにも要件を言わないお客様に、私は思わず首を傾げる。


すると、お客様はようやく口を開いてくれた。


「……カズ、いますか」


……カズ?

カズ、カズ。


牧原さんか香島くんの知り合いか?
でもふたりの名前はカオリとユウタだしなー、カズじゃないしなー。

となると、今ここにいない志木さんか代理の知り合い?


……あ。


「志木、ですか?」

私がそう問いかけると、女性は無言でコク、と頷いた。


一度も名前で呼んだことないから、パッと出てこなかった……彼氏の名前なのに。私、本当に彼女失格だなぁ。


「志木は今、席を外しておりまして。お約束はされていますか?」

女性はまた無言で、今度はふるふると首を横に振る。

約束はしてないんだ。まあ、志木さんが約束を忘れてお昼に行っちゃうなんてまずないけど。


「良ければ連絡を取ってみます。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

すると女性はボソッと、「……橋田です」と答えた。

橋田、さん。


あちらでおかけになって少しお待ちいただけますか?と言うと、橋田さんはその場から離れ、ロビーのソファに腰かけた。

その後すぐに、牧原さんが志木さんの携帯に連絡をしてくれて、幸い職場近くでお昼休憩をしていたらしい彼は、その後五分くらいですぐに営業店に戻ってきた。
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