現状報告!オタク女子ですが、エリート上司に愛されてます。
数分後。
更衣室で着替えを終え、言われた通り、廊下で待っていると、営業室から課長が出てきた。

「悪い。お待たせ」

鞄を持っていない方の左手を軽く挙げて、そう言うと、彼は私の前をスタスタと歩いていく。
私はそんな彼を小走りで追いかけ、隣に立つ。


支店を出ると、外はいつもよりも真っ暗だ。すぐそこが駅だから、人通りは多いし、道も明るいけれど。


「係長のことだから、遠慮して先に帰っちまったかと思った」

駅へ向かって歩きながら、課長が私にそう言う。


「もちろん、申しわけないなとは思いました。でも、どうしても謝りたくて」

私がそう言うと、課長はきょとんとした顔を私に向ける。

私がその場でゆっくりと足を止めると、課長も不思議そうにしながら、私と同じように立ち止まる。


正面から私を見つめる課長に、私は。

「今日はありがとうございました。そして、私が不甲斐ないばかりに課長に仕事を手伝わせてしまって本当にすみませんでした」

頭を下げてそう言うと、少しの間の後、私の頭の上にポン、と課長の手が乗せられる。

ゆっくりと顔を上げると、課長の手も私の頭の上から離れる。

課長と目が合う。すると彼は。

「仕事に関しては、係長は充分すぎるほどよくやってくれてるよ。まあ、後輩の指導に関してはもう少しがんばってほしいと思うこともあるけど……

でも、役職に就いて、まだ一週間だもんな。
ゆっくりとでいいよ。係長のペースで、だんだんと係長らしくなっていってくれれば、それでいいよ」

そう言うと、彼はふんわりと笑いかけてくれたーー……。

見たことのない笑顔。
というか、彼の笑った顔をこうして正面から見つめるのは初めてだった。

こんなふうに笑うんだ。

この笑顔はきっと、私を励ますための笑顔。
私のための、笑顔。


そう思うと、なんだか胸がキュンとしてしまう……。


胸がキュン、って。
これじゃまるで、恋の前兆みたいじゃない。
いやいや、ないって。私が三次元の男性に恋をするなんて。

……でも、課長が意外にもやさしくて、滅多に見せない笑顔を間近で見せてくれたんだから、この私が三次元にときめくのも無理はないと思う。
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