次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
夜も更けて、プリシラもようやく眠りにつこうとしていた時だった。外から、それまでの静けさが嘘のような嬌声が聞こえてきた。
「なにかあったのかしら?」
ベッドから体を起こし、耳をすませた。なにかの事件か‥‥と不安に思ったが、なんのことはない。門番の兵たちが酒盛りをして騒いでいるようだった。男たちの楽しそうな笑い声が響いている。
「ーー呆れた勤務態度ねぇ」
王宮の門番では考えられないことだが、プリシラひとりの監視程度の任務では気が緩むのも仕方ないのかもしれない。
プリシラはため息をついて、再びベッドに横になろうとした。その時、すぐ近くの窓に黒い人影がうつった。
「ひっ」
大声で叫びそうになるのを必死にこらえて、慌てて布団を引き寄せる。
(ご、強盗?あの門番たち、酒盛りしてる場合じゃないじゃないの!)
心の中で門番たちを罵倒しつつも、武器になりそうなものはないか室内に目を走らせる。部屋の片隅に古びた壺を発見し、覚悟を決めてそちらに走り出した。
プリシラが壺を手にするのと、ギギィと嫌な音を立てて窓が開き誰かが侵入してくるのがほぼ同時だった。
「止まりなさいっ。と、とまらないと殴るわよ」
プリシラは頭上に壺をかかげて、叫んだ。声が震えてしまい、いまいち決まらなかったが、かろうじて相手の動きを止めることができた。が、持ち上げた壺は予想外に重くプリシラはバランスを崩してしまった。
「わ、わわわ」
足元がふらつき、手を離してしまった壺はプリシラの体をめがけて落ちてくる。
「あぶなっ」
聞き覚えのある声が壺の割れる音にかき消される。落ちてくる壺からプリシラの体をかばうように一緒に倒れこんだ侵入者は、プリシラが誰よりも会いたいと望んでいた人物だった。
「ーー我が妻がこんなにたくましいとは知らなかったな」
「ディル⁉︎」

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