次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「なにを考えているのよ!?ミモザの宮は男子禁制。夫となる相手すら入ってはいけないって‥‥当然、あなたも知っているでしょ」
プリシラはベッドから立ち上がり、慌てて側に掛けてあるガウンを羽織った。夫以外の男に夜着姿を見られるなんてとんでもないことだ。
(いや、服装の問題じゃないわよね。こんな夜更けに男性と二人きりっていうのがそもそもダメよ。まして、相手は義弟となるディルだもの)
誰かに見られでもしたら大変なことになる。自分はもちろん、ディルの立場も危うくなるだろう。
「知ってるよ。そのおかげでミモザの宮には誰も近づかない。だから、ばれやしない」
プリシラの心配をよそにディルは飄々と言ってのけると、プリシラに近づいてくる。
「そういう問題じゃない!一刻も早く出て行ってよ」
ディルは自分を押しのけようとするプリシラの腕を容易く摑まえると、ふっと意地の悪い笑みを浮かべた。
「こんな時までいい子ちゃんぶることないんじゃない? 自分勝手に逃げたフレッドに義理立てする必要もないだろ」
ーー今夜は満月だったろうか。窓辺から差し込む月明かりは思いのほか明るく、ディルの顔をはっきりと照らした。
ディルは射抜くような鋭い眼差しをプリシラに向けている。
「‥‥いい子ぶってなんかっ」
ーーない。と果たして言い切れるだろうか。プリシラはディルのまっすぐな視線から逃れるように目を伏せ、唇を噛み締めた。
「失踪なんて、そんなことするほど思い悩んでいたのなら‥‥ひとことくらい、私にも相談して欲しかった。所詮は国の為の政略結婚。女として愛されているわけじゃないことはわかっていたわ。だけど、同志としての絆のようなものが確かにあると思っていたのに」
自分の胸の中だけに留めておくべきこと。そう判断し、押し殺したはずの本音が
口をついて出てしまった。
国民に愛される良き王と王妃になる。自分とフレッドは同じ目標に向かって共に歩んでいくのだと信じていた。愛はなくとも自分達の間には信頼があると思っていた。だが、フレッドはそうは思っていなかったのか‥‥。プリシラの目にうっすらと涙が滲んだ。
「ごめんなさい、ディル。今のは聞かなかったことにして‥‥」
ディルの長い指がプリシラの涙をそっと拭う。優しい手つきだった。
「お前が怒るのは当たり前だと思うぞ。どう考えてもフレッドが悪い」
「ーーそれを言いにきてくれたの?もしかして、慰めてくれてる?」
ディルの顔を覗き込んでみる。
「‥‥別に。花婿に逃げられた惨めな女の顔を見にきただけだ」
口ではそんなことを言いながらも、ディルはバツが悪そうにプリシラから視線を逸らした。プリシラはふふっと小さく微笑んだ。
(なんだ。意外と世話焼きなところ、変わっていないのね)
不器用な優しさ。かつてのディルを見つけたようで、なんだか嬉しかった。
張りつめていたプリシラの心が少し緩んだところで、ディルが思いがけないことを言い出した。
「まぁ、本当に自分の意思で出て行ったのかも疑問が残るしな‥‥」
「えっ!?」
プリシラはベッドから立ち上がり、慌てて側に掛けてあるガウンを羽織った。夫以外の男に夜着姿を見られるなんてとんでもないことだ。
(いや、服装の問題じゃないわよね。こんな夜更けに男性と二人きりっていうのがそもそもダメよ。まして、相手は義弟となるディルだもの)
誰かに見られでもしたら大変なことになる。自分はもちろん、ディルの立場も危うくなるだろう。
「知ってるよ。そのおかげでミモザの宮には誰も近づかない。だから、ばれやしない」
プリシラの心配をよそにディルは飄々と言ってのけると、プリシラに近づいてくる。
「そういう問題じゃない!一刻も早く出て行ってよ」
ディルは自分を押しのけようとするプリシラの腕を容易く摑まえると、ふっと意地の悪い笑みを浮かべた。
「こんな時までいい子ちゃんぶることないんじゃない? 自分勝手に逃げたフレッドに義理立てする必要もないだろ」
ーー今夜は満月だったろうか。窓辺から差し込む月明かりは思いのほか明るく、ディルの顔をはっきりと照らした。
ディルは射抜くような鋭い眼差しをプリシラに向けている。
「‥‥いい子ぶってなんかっ」
ーーない。と果たして言い切れるだろうか。プリシラはディルのまっすぐな視線から逃れるように目を伏せ、唇を噛み締めた。
「失踪なんて、そんなことするほど思い悩んでいたのなら‥‥ひとことくらい、私にも相談して欲しかった。所詮は国の為の政略結婚。女として愛されているわけじゃないことはわかっていたわ。だけど、同志としての絆のようなものが確かにあると思っていたのに」
自分の胸の中だけに留めておくべきこと。そう判断し、押し殺したはずの本音が
口をついて出てしまった。
国民に愛される良き王と王妃になる。自分とフレッドは同じ目標に向かって共に歩んでいくのだと信じていた。愛はなくとも自分達の間には信頼があると思っていた。だが、フレッドはそうは思っていなかったのか‥‥。プリシラの目にうっすらと涙が滲んだ。
「ごめんなさい、ディル。今のは聞かなかったことにして‥‥」
ディルの長い指がプリシラの涙をそっと拭う。優しい手つきだった。
「お前が怒るのは当たり前だと思うぞ。どう考えてもフレッドが悪い」
「ーーそれを言いにきてくれたの?もしかして、慰めてくれてる?」
ディルの顔を覗き込んでみる。
「‥‥別に。花婿に逃げられた惨めな女の顔を見にきただけだ」
口ではそんなことを言いながらも、ディルはバツが悪そうにプリシラから視線を逸らした。プリシラはふふっと小さく微笑んだ。
(なんだ。意外と世話焼きなところ、変わっていないのね)
不器用な優しさ。かつてのディルを見つけたようで、なんだか嬉しかった。
張りつめていたプリシラの心が少し緩んだところで、ディルが思いがけないことを言い出した。
「まぁ、本当に自分の意思で出て行ったのかも疑問が残るしな‥‥」
「えっ!?」