次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
(ーーどういうこと?)
ひとり取り残されたプリシラは、ディルの言葉の意味を考えあぐねていた。ディルがフレッドを憎んでいるだなんて‥‥そんなこと思ってもみなかった。たしかに、ふたりは正反対の性格であまり気が合う方ではないだろう。けれど、フレッドはいつだって問題児の弟を優しく見守っていたし、自由を愛するディルが王位継承者というフレッドの立場を羨んでいたとも思えない。
(けど、さっきのディルの表情‥‥冗談には見えなかった。私はフレッドだけでなく、ディルの気持ちも全然わかっていないのだわ)
フレッドとディルは異母兄弟だ。他に兄弟姉妹はいない。
フレッドの母は五年前に流行病で亡くなった前王妃サーシャ。名門ザワン公爵家の出身で、優しさと賢さを兼ね備え、国民から非常に愛された王妃だった。
サーシャ妃の死後、アドリア海を挟んだ隣国ソルボンからルワンナ王女が輿入れしてきたが、派手で浪費家な彼女はあまり評判がよくない。国民人気はいまだサーシャ妃が圧倒的である。ルワンナ王妃にはまだ子どもはなかった。
対して、ディルの母は王宮の下働きをしていた中流貴族の娘だった。絶世の美女と評判だったが、控えめな性格で、気の弱いところがあったと聞く。ミレイア王国に側室制度はないので、ディルの母の立場はただの愛人だ。身分をなにより重んじる宮廷内では、心ない中傷を受けることも多かったのだろう。心労がたたったのか、ディルを産んで一年もたたないうちに彼女は亡くなった。
王子とはいえ、後ろ盾のないディルの立場は不安定なものだった。プリシラは下らないと思うが、あることを理由にいまだにディル廃嫡を望む者もいるようだ。
けれど、次期国王のフレッドがディルを弟として、とても可愛がっているから‥‥反ディル派の者たちも黙るしかないというのが現状だった。ディルの最大の後ろ盾はフレッドなのだ。
(ーーだからこそ、なのかしら?ディルは素行には少々問題があるけど、語学も数学も剣の腕も、決してフレッドにひけをとらないもの。口には出さなくても、悔しい思いがあるのかもしれない)
フレッドの行方、ディルの言葉の真意、プリシラにはわからないことばかりだ。
様々なことがぐるぐると頭の中を回り続け、今夜は眠れそうにもない。
ひとり取り残されたプリシラは、ディルの言葉の意味を考えあぐねていた。ディルがフレッドを憎んでいるだなんて‥‥そんなこと思ってもみなかった。たしかに、ふたりは正反対の性格であまり気が合う方ではないだろう。けれど、フレッドはいつだって問題児の弟を優しく見守っていたし、自由を愛するディルが王位継承者というフレッドの立場を羨んでいたとも思えない。
(けど、さっきのディルの表情‥‥冗談には見えなかった。私はフレッドだけでなく、ディルの気持ちも全然わかっていないのだわ)
フレッドとディルは異母兄弟だ。他に兄弟姉妹はいない。
フレッドの母は五年前に流行病で亡くなった前王妃サーシャ。名門ザワン公爵家の出身で、優しさと賢さを兼ね備え、国民から非常に愛された王妃だった。
サーシャ妃の死後、アドリア海を挟んだ隣国ソルボンからルワンナ王女が輿入れしてきたが、派手で浪費家な彼女はあまり評判がよくない。国民人気はいまだサーシャ妃が圧倒的である。ルワンナ王妃にはまだ子どもはなかった。
対して、ディルの母は王宮の下働きをしていた中流貴族の娘だった。絶世の美女と評判だったが、控えめな性格で、気の弱いところがあったと聞く。ミレイア王国に側室制度はないので、ディルの母の立場はただの愛人だ。身分をなにより重んじる宮廷内では、心ない中傷を受けることも多かったのだろう。心労がたたったのか、ディルを産んで一年もたたないうちに彼女は亡くなった。
王子とはいえ、後ろ盾のないディルの立場は不安定なものだった。プリシラは下らないと思うが、あることを理由にいまだにディル廃嫡を望む者もいるようだ。
けれど、次期国王のフレッドがディルを弟として、とても可愛がっているから‥‥反ディル派の者たちも黙るしかないというのが現状だった。ディルの最大の後ろ盾はフレッドなのだ。
(ーーだからこそ、なのかしら?ディルは素行には少々問題があるけど、語学も数学も剣の腕も、決してフレッドにひけをとらないもの。口には出さなくても、悔しい思いがあるのかもしれない)
フレッドの行方、ディルの言葉の真意、プリシラにはわからないことばかりだ。
様々なことがぐるぐると頭の中を回り続け、今夜は眠れそうにもない。