次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「え?出かけた?変ね。昨夜はそんなこと言ってなかったのに……」
「はい。なんだか急用だとおっしゃって、ターナさんと一緒に夜のうちに発たれました」
まだ若いディルの側近のひとり、カハルは自身も困惑した様子でプリシラにディルからの伝言を伝えた。
「ターナが一緒なら安心だけど。一体どこへ?」
「ユーレナへ行くとおっしゃってました。遅くとも二、三日で戻るから心配するなと」
「ユーレナ?」
ユーレナは王都シアンよりずっと南に位置する古都だ。はるか昔にミレイア王家とは別の王朝が栄えた歴史ある街だが、いまはただの片田舎だ。王太子が出向くような場所ではないはずだが……。
「すみません。お役に立てなくて」
カハルがすまなそうに頭を下げる。
「そんなことないわ。わざわざありがとう。殿下が心配するなと言ってるんだから、大丈夫よ」
プリシラはカハルの労をねぎらってから彼を帰した。
どんな急用なのか気にならないといえば嘘になるが、いまはおとなしく帰りを待つしかないだろう。
「お父様と話をしていいか、ディルに相談しようと思っていたけど‥‥」
ナイードに不審な動きがあることをロベルト公爵は把握しているのか、さらに言えばフレッドを攫ったのは公爵なのかどうか。もう面と向かって問い詰めてしまおうとプリシラは考えていた。それについてディルの意見を聞きたかったのだが、仕方ない。
「うーん。事後報告でいいかしら。ごめんね、ディル」
プリシラは早速、公爵に遣いを出すことに決めた。毎日のように王宮に顔を出しているのだから、早ければ明日にでも時間を作ってくれるだろう。
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