次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
その時だった。ドンドンドンと、ずいぶん乱暴に部屋の扉がノックされた。
「誰かしら?」
リズも他の侍女たちも所用で出払っていたため、プリシラは自ら扉を開けた。
「えっ‥‥」
予想もしていなかった訪問者にプリシラは困惑した。はっきり言って、あまり歓迎したくはない客だ。濃紺の制服に身をつつみ、腰に短剣を携えた男が二人。王都の治安維持や犯罪捜査を業務とする王都警備隊の隊員たちだ。
上役なのであろう中年の男が口を開いた。彼の顔にはプリシラも見覚えがあった。たしか王都警備隊の上層部のひとりだ。
「王太子妃殿下。朝早くから失礼して、大変申し訳ございません。私は王都警備隊の副司令官を務めるバレットと申します。こっちは部下のイザークです」
バレットはその役職から考えると意外なほど柔和な顔つきをしており、プリシラに最低限の礼をつくしてくれた。
そんな彼を守るようにぴたりと背後についているイザークは年は三十代半ばくらいだろうか。一切の隙のない立ち姿だけで腕がたつのがわかるが、バレットと違い愛想はないようだ。軽く頭を下げただけでニコリともしない。
「副司令官がわざわざ出向いてくださるということは、あまり楽しいお話じゃなさそうね」
「残念ながらその通りでございます。単刀直入にお伝えしますが、お父上であるロベルト公爵にフレッド前王太子殿下の拉致・暗殺疑惑がかかっております」
プリシラは細く、ゆっくりと息を吐いた。案外と驚きはなかった。いつかは起こりうることのような気がしていたからだ。
「そうですか。お父様は王都警備隊の取り調べを受けるのね。私も身柄を拘束されるのかしら?」
王太子暗殺などという大罪の容疑者の娘を王宮に置いておくわけにはもちろんいかないのだろう。
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