次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「お父上はグラナの塔で我々の監視下に置かせていただきます。プリシラ様は王太子妃という立場を考慮して、拘束とまではいきませんが‥‥リノの離宮で御身を預からせていただきます。護衛兼監視が数名つきますので、自由は無いものとお考えください」
リノ離宮は王家の所有する古城のひとつで、王都からだとディルが向かったユーレナより少し手前に位置する。近年はほとんど使われていないから、居心地はあまりよいものではないだろう。
「わかりました。生活に必要なものは持っていっていいのかしら? さすがに着た切り雀は嫌だわ」
プリシラは自身の着ている裾の長い華やかなドレスを見ながら、たずねた。軟禁生活がいつまで続くのかはわからないが、許してくれるのならもう少し動きやすい服装に着替えたかった。
「すべて向こうで用意させます」
「私物の持ち出しは不可ってことね。では、今すぐにでも出発できるわ」
「申し訳ございません。イザーク、プリシラ様にマントを。視界が悪くなるから、手を貸してやれ」
イザークは小さくうなずくと、黒いマントをプリシラの肩にかけた。
「あなたの髪は目立つので、フードも被っておいた方がよいかと」
「‥‥なるほど。ありがとう」
このマントは他者からの目隠しが目的なのだ。どうせすぐに噂は広まるだろうが、ジロジロ見られるのは気分のよいものではない。プリシラはイザークの助言にしたがい、フードを目深に被った。
「お手をどうぞ」
上官の命令に忠実に、イザークが手を差し出したがプリシラはそれを断った。
「大丈夫よ。歩き慣れた王宮ですもの。まさかリノの離宮まで歩けと言うわけではないでしょう」
「ご心配なく。馬車を用意していますから」
プリシラの冗談に、バレットが苦笑して答える。
「馬車まではイザークがお供させていただきますが、この通り無愛想な男なのでプリシラ様が不愉快な思いをしないといいのですが‥‥」
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