次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
イザークとプリシラは人目につかない裏道を抜けるようにして歩いた。そして、バレットが心配した通りに、プリシラは居心地の悪い思いをさせられていた。不信感いっぱいの鋭い眼差しがイザークから注がれ続けているからだ。プリシラはたまらずに立ち止まって、彼を見る。
「職務熱心なのはよいことと思うけど、そんなに警戒する必要ないわよ。私は逃げないし、自害もしないから」
イザークは相変わらずの無表情だったが、少しだけプリシラに興味がわいたのか視線を合わせてきた。間近で見るアイスブルーの瞳は冬の湖のように、厳しく美しい。
「苦労知らずのお姫様のわりには意外とたくましいんですね。それとも‥‥下手したら自分の首も危ないってことに気づいてないだけですか?」
「私の命は、我が国の民のものよ。私が惜しむことはないわ」
イザークは片方の眉をつりあげて、ふんと鼻で笑った。
「本心ならあっぱれですね。ま、建前だとしてもそこまで堂々と嘘がつけるなら立派ですよ」
プリシラはイザークの言葉をしばしの間考えて、堂々と嘘をついた。にっこり笑って、こう言ったのだ。
「もちろん、本心からよ」
「‥‥いいですね。絞首台にあがる寸前にも、同じように微笑んでみせてください」
「ずいぶんと手厳しいわね」
絞首台の上でも誇りと威厳を失わずに。果たして、自分にそんなマネができるだろうか。
いつのまにか本心を隠すのがうまくなってしまっただけで、あるべき姿を演じるのに慣れてしまっただけで、本当の自分はちっぽけで弱い人間だ。
父親の死も、自分の死も、怖くてたまらない。いまだって、できることなら逃げてしまいたい。不器用だけど優しい、あの手にすがりたい。
「職務熱心なのはよいことと思うけど、そんなに警戒する必要ないわよ。私は逃げないし、自害もしないから」
イザークは相変わらずの無表情だったが、少しだけプリシラに興味がわいたのか視線を合わせてきた。間近で見るアイスブルーの瞳は冬の湖のように、厳しく美しい。
「苦労知らずのお姫様のわりには意外とたくましいんですね。それとも‥‥下手したら自分の首も危ないってことに気づいてないだけですか?」
「私の命は、我が国の民のものよ。私が惜しむことはないわ」
イザークは片方の眉をつりあげて、ふんと鼻で笑った。
「本心ならあっぱれですね。ま、建前だとしてもそこまで堂々と嘘がつけるなら立派ですよ」
プリシラはイザークの言葉をしばしの間考えて、堂々と嘘をついた。にっこり笑って、こう言ったのだ。
「もちろん、本心からよ」
「‥‥いいですね。絞首台にあがる寸前にも、同じように微笑んでみせてください」
「ずいぶんと手厳しいわね」
絞首台の上でも誇りと威厳を失わずに。果たして、自分にそんなマネができるだろうか。
いつのまにか本心を隠すのがうまくなってしまっただけで、あるべき姿を演じるのに慣れてしまっただけで、本当の自分はちっぽけで弱い人間だ。
父親の死も、自分の死も、怖くてたまらない。いまだって、できることなら逃げてしまいたい。不器用だけど優しい、あの手にすがりたい。