パーフェクト・インパーフェクト


「……トシ。俺いま、かなり見てはいけないものを見てる気がする」


特徴的な、あまり温度のない、淡々としたしゃべり方。

“あまいたまごやき”のギタリストは、ぜんぜん似合わないようで超絶似合っている黒い耳のカチューシャを頭の上に乗せていた。


「いやいやこっちこそ、びっくりさせるなよ。季沙(きさ)と?」


フランクな問いかけに、じっとわたしを見つめていたふたつの深い瞳は退屈そうにふっと外れ、ベーシストへ向けられた。


「うん、ちょうど休み合ったから。前倒しのクリスマスで」

「ああそっか、当日は季沙のほうが休めないもんな」

「もうすでに準備始まってるみたいで、毎日死にそうな顔して帰ってくるけど」


キサ、という、たぶん女の人の名前だと思う。

話の内容からいろいろ考察できるけど、部外者なので黙っていると、すぐに俊明さんが気づいて視線をくれた。


「置いてけぼりにしてごめん。季沙って、洸介の奥さんのことなんだけど」

「えっ……!」


おおかた彼女だろうと気楽な予想をしていたから、肩すかしを食らったというよりむしろ、頭を木槌で殴られたような衝撃だった。


「お、奥様……ですか? つまり結婚してるという……?」

「そうそう、ちょうど1年くらい前だったよな? 入籍したの」


言葉で返事をするかわりに瀬名さんがひとつうなずいた。


左手に視線を落としてしまったのはほぼ無意識のうちだったかもしれない。

ベーシストに負けないくらい色っぽい形をしている薬指には、こないだは無かったはずの、銀色の輝きがあった。

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