パーフェクト・インパーフェクト
「ていうか、その奥さんはどこにいるんだよ?」
「トイレ行ってる。もうちょっとで戻ってくると思う」
本当にそれと同時くらいだった。
ちょっと急いだ感じに駆け寄ってきた影が、まるで巣に戻ってくる雛鳥のように、ごく自然に瀬名さんの隣に収まった。
「こうちゃん、おまたせっ。トイレめちゃくちゃ混んでたー!」
とても甘ったるい、砂糖菓子みたいな声。
それが親しげに呼んだ“こうちゃん”がイコール瀬名洸介さんだということを認識したころには、まんまるの目はすでにわたしと俊明さんの顔を交互に見比べていたのだった。
いっさいの毒気がない、優しい印象のたれ目がおびえたような色に変わる。
几帳面に短く切られた爪の指先が瀬名さんの左腕にぐるんと巻きついた。
「こ、こうちゃん……わたしいま、すごく見てはいけないものを見ちゃってる気がする……」
ああ、そうだ。
いろいろ衝撃がありすぎたせいですっかり忘れていたけど。
もしも、俊明さんが本当に結婚しているとして。
その事実を瀬名さんと奥様が知らないわけがない。
つまり、休日に女の子とふたりきりでデートをしている現場をシッカリ見られてしまったのは、かなり問題なのでは?
一瞬にして嫌な感じの汗が全身の毛穴という毛穴からドバドバ吹き出した。
やばい。
これは、まさに。
――修羅場。