パーフェクト・インパーフェクト
「季沙」
低くこもる声がうしろから奥さんのことを呼んだ。
これまでに聴いたどんなのよりも優しい音でびっくりした。
ベーシストとはまた違った意味でなにを考えているのかわからない瞳は、こんなにも愛おしそうに誰かを映すことがあるんだ。
「トシが、アトラクションのパスの時間だって」
「あっ」
季沙さんのかわりに声を上げたのはわたしだった。
「わ、忘れてた……!」
「うん、だと思った。俺も忘れそうだった」
呪われたエレベーターに乗って落ちるフリーフォール、乗りたいと言ったのはわたしのほうだったのに。
俊明さんは困ったように笑うと、どうしようか、と首をかしげた。
「俺はどっちでもいいよ。それとも季沙と行ってくる?」
盛り上がってたみたいだし、と保護者みたいな顔をする。
その顔を見ていたらなんだかもやもやしちゃう。
なんで?
「だめ」
答えあぐねているわたしにかわり、きっぱりそう言ったのは瀬名さんだった。
「ちゃんとふたりで乗ってきたら」
「うん、わたしもそのほうがいいと思う!」
季沙さんが瀬名さんの隣へ軽やかに移動していく。
やっぱりこのツーショット、すごくしっくりくる。
「わたしたちはここで。おじゃまムシしちゃってごめんね。大好きな杏鈴ちゃんとお話できて夢みたいだったよー! よかったらまた会いたいですっ」
いいでしょ、と甘えたように旦那さんを見上げる背の低い頭を、ぽすぽすと大きな手が優しく撫でた。
返事のかわりにしたそのしぐさからは愛情が目に見えてくるようで、本当に素敵だ。
おじゃまムシ、
は完全にわたしのほうだったな。
申し訳ないことをしちゃった。
夫婦にとってもせっかくのクリスマスデートだというのに。