パーフェクト・インパーフェクト


「えっ、うそ、あれって上月杏鈴ちゃんじゃない?」


ふと、キャッキャとした若い感じの声がぽんとこっちまで届いてきた。

自分の名前がやけに耳につく現象って不思議だ。


「えー、ほんとだあ!」

「プライベートかな?」


キャップを深くかぶる。

視界の端でとらえた女の子ふたり組は、これ以上近づきも遠ざかりもしないで、数メートルの距離を保ったまま大声ではしゃぎ続けていた。


「スタイルめちゃくちゃいい~!」

「顔ちいさーいっ」

「どうしよう、声かけちゃおうか?」

「えええ、無理だよお。もし人違いだったらハズイじゃん!」

「たしかに。ちょー塩対応されてもツライもんね!」


人違いじゃないし、塩対応もしないので。

そうだよーって笑顔で答えるので。


だから、お願いだからそんなふうに遠巻きでやいやい言うのは、やめてくれないかな。


こういうの、いちばん困る。


わたしのほうから声をかけるわけにもいかないし。

身を隠してもいいけど、なんでこっちが逃げなきゃいけないのかわからないし。

というかこの状況で彼が戻ってきたらわたしはいったいどうすればいいわけ!


なーんてキャップの内側で百面相していたら、ぱしゃりと、世界でいちばん好きで、世界でいちばん嫌いな音がした。


いつもは大好きなはずの、シャッターを切る音。

こんなふうに盗撮まがいのことをされるたび、どんどん嫌いになっていくから本当にやめてほしい。


どうしてこっちがこんな気持ちにならないといけないんだろ。

なんでふつうに、声かけてくれないの。

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