パーフェクト・インパーフェクト


「お待たせ」


最悪のタイミングで彼が帰ってきた。

顔全体を覆うようにさらにキャップを深くかぶり直す。


彼女たちに背をむけ、彼のほうに向きあうと、どうしたの、と優しく言われた。


「えーっ、待って、あれってもしかして彼氏さんかな?」

「杏鈴ちゃん彼氏いたんだあ! しかもちょーかっこいい、スタイルもいい! さすがじゃんね~!」

「彼もモデルさんかな?」


わたしのせいで不快な思いをさせてしまうかも。

ごめんなさい。


状況を伝えたいけど、いましゃべったら悔しくてぼろりと泣いてしまいそうで、なんにも言えなくて。

ただ彼のつま先を見つめていると、数秒後、その黒のレザーはどこかへむけて歩き出していったのだった。


ああ、さすがに気づいたよね。

そして当たり前に逃げますよね。


でも、せっかく逃げるなら、わたしのことも連れていってほしかったな。


「あの……すみません、上月杏鈴ちゃん、ですか?」

「え……」


こんな場所でみっともなく泣きそうだった、そのとき。

いきなり背中から名前を呼ばれてふり向くと、さっきの女子ふたり組がすぐ傍で恥ずかしそうにそわそわしていた。


「はい、そうです……?」


わけがわからずうなずくと、女子高生のような風貌の彼女たちは手を取りあってぴょんぴょん飛び跳ねた。


「わー、本物だったあ!」

「よかったあ!」


さっきまで盗撮してきていたくせに、これはいったいどういう風の吹きまわしでしょうか?

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