パーフェクト・インパーフェクト


靴を脱ぎ、押し寄せる波に、足先だけをちょんと差し出してみる。

一瞬触れただけなのに、冷たすぎて、つま先がとれたかと思う。


それでも、海は、どこまでも美しかった。

もうほとんど沈みきっている太陽が、水平線の果てだけにオレンジを落として、世界全体をグラデーションに染め上げているみたい。


これから朝を迎える街のことを思うと気が遠くなった。

地球は休まないできょうもまわっているんだって、当たり前に知っている事実にさえ感動する。



まだまだ、がんばろう。

帰ったら、サボらないでスキンケアをして、夕食は食べすぎないようにして、あした時間があったらジムに行こう。


わたしは“プロ”だから、もう誰のこともガッカリさせないようにしなきゃ。


いつまでもこの場所にいたいって、
この仕事が大好きだって、

落ち込むことがあるたびに思い知らされる。


誰にも負けたくない。

自分にだって負けられない。



波の音と呼吸音のみが存在しているだけの場所に、突然カシャという機械音が落ちてきて、はっとした。

振り返ると背の高い影がビクッと動いたので、つられてわたしもビクッとしてしまう。


「ごめん、つい」


フランクに謝ったのは皆川さんだった。
ちょっと微笑んでいるのが薄暗いなかでもわかる。


「すごくいい雰囲気だったから盗撮しちゃった」


こんなに軽い謝罪がある?

ぜんぜん悪いと思っていなさそうな皆川さんは、長い脚を一歩ずつこちらへ寄せてきて、たったいま撮ったばかりの写真を見せてくれた。

< 16 / 386 >

この作品をシェア

pagetop