パーフェクト・インパーフェクト


彼の膝のあいだに、うしろから抱っこされるみたいな形で座る。


すぐに目の前にやってきたはじめての楽器に心拍数が上がった。

これまで楽器といえば、リコーダーくらいしかマトモにさわったことがないの。


「なんか……思ってたよりおっきい」

「そう、ギターより大きいよ。その分低い音が出る。弦も太いし」


彼の左手がネックの上のほうを押さえ、右手がベンベンと弦を(はじ)いていく。

とても低いドレミファソラシドだった。


「こんな感じ。まあ、あんまりベースが歌うことはないけど」

「えーすごい、音が鳴った! すごーい!」

「触ってみる?」

「いいんですかっ」

「うん、いいよ。でも指細いし、最初はけっこう痛いと思うからピック弾きのほうがいいかも」


小さな三角が手のひらに転がってきた。

ピックって、名前だけ聞いたことがあるけど、こんなぺらぺらのプラスチックなんだ。


彼の左手が動いていくのに合わせて、指定された弦に三角で触れていく。

かなり不格好ではあるけれど、わたしにもドレミファソラシドを鳴らすことができた。


ものすごく感動した。


すごいすごいと喜ぶわたしに彼はちょっと笑い、子どもみたいだとからかう。


よっぽどわたしが不服な顔をしていたのか、違うよ、と弁解された。

いいや、いまのはぜったい、違うくなかった。

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