パーフェクト・インパーフェクト
「ベースしようと思ったきっかけ……は、あったんですか?」
体をよじってふり向くと、目が合うなり彼は眉を下げて微笑んだ。
「うーん。きっかけというか、なんとなく“なにか”が欲しくて。たまたま母方の叔父が学生時代にベースやってたってんで、お下がりを貰っただけ。なんだろうな、個性みたいなのが欲しかったのかな。いかにも中2っぽい発想だけど」
「それまではそういうの、なかったんですか? スポーツとか……」
「ないよ。勉強しかしてこなかったから」
「まじめなタイプ?」
「優等生ぶるのだけはうまいよ」
おどけたように言うから笑っちゃったけど、どこか引っかかりのある言い方だった。
それまでより少しだけ温度が下がったような気もした。
「優等生な自分はあんまり好きじゃない……ですか」
よけいなことを簡単に聞いてしまったと思う。
彼の顔は見ることができなかった。
太ももにかかっていた重力がふっと消え去り、ベースが元の位置に戻っていく。
「まあ俺は『ぶってる』だけで、もともと優等生じゃないし。頭も妹のほうがはるかに良くて」
「ええっ、妹さん!」
「うん、実は3つ離れた妹がいる。俺と違って出来のいいやつで、お兄ちゃんはいつも肩身が狭かったよ」
なんとなく、妹さんを上げるための謙遜でも、ただおどけているだけでもない感じがした。