パーフェクト・インパーフェクト


「うちはもともと、そんなに仲の良い家庭ではなかったんだよ」


代々病院を経営する医者一族だったんだ、

と、彼はもう戻らない、遠い思い出を語るみたいに言った。


「高校のときデビューが決まって、俺は医者じゃなくベーシストでいることを選んだ。そしたら父親が、出ていけ、ってさ。居心地悪い場所にぬけぬけと居座るつもりもなかったし、むこうからそう言ってもらえてむしろよかったかな」


きっとあんまり言いたくなかったこと、わたしが根掘り葉掘り聞いたせいで、しゃべらせてしまった。


大丈夫だよ、と言ってるみたいに浮かべ続けている微笑みに、胸がちくりとする。

お正月休みを地元で過ごさない理由、わたしと会う時間を作ってくれたんだって勝手に解釈していたけど、きっとそうではなかったんだ。


「……もう、仲直り……は、できないですか?」

「する必要も、理由もないよ」


こんなにも穏やかな顔で、こんなにも冷たく、言いきってしまうなんて。


「ごめん、正月早々する話じゃなかったな」


うつむいたわたしに、仕切り直すように彼は言った。


頬をするりと撫でられる。

つられて顔を上げると、いつもの優しい目と視線が絡んだ。

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