パーフェクト・インパーフェクト


「ところで人生初のアルコールはどう?」

「えー、わかんない。すごいおいしいとは思えないけど、ぜんぜん……うん、まずくない。まだあんまり飲んでないけど」


フルートグラスを指でなぞる。

水滴がひんやりして気持ちいい。

ほんの少し、体がポカポカしてきている気がする。


「なんか、ノンアルビールをしんどそうな顔して飲んでたのが懐かしいよ」


彼が思い出すように目を伏せて、笑った。


「きっとすごくいい子なんだろうなって思った。それはまあ、MVの撮影のときにはもう思ってたんだけど」


わたしが彼との思い出を持っているのと、同じように。

彼も、彼の世界で、わたしとの思い出をちゃんと持っているのだということ、そんな当たり前のことをいま知って、感動さえしてしまう。


彼が積み重ねてきた歴史、
置いてきた過去、
大切にしまっている思い出、

ぜんぶ、きっとこれからもわたしには手を伸ばせないものだけど。


それでも、ゆっくりでも、少しずつでも、わたしも彼の人生の一部になっているのかと思えて、

わからない、

でもそう思えて仕方なくて、


――心が、震えている。



「最初にデートに誘ったとき、もちろん下心はあったよ」

「……もしかして酔ってる?」

「うん、けっこう酔ってる。顔に出ないタイプなんだって前にも言っただろ」


くすくす笑う。

酔うと笑い上戸になる人だということも思い出した。忘れていた。

なんで忘れてたんだ、と疑問に思って、すぐに気づく。


彼はきょうまで、わたしといっしょのときは、ぜったいにお酒を飲まなかったんだ。

わたしが未成年で、飲めないから。

たぶん、ずっと、合わせてくれていたんだ。


こういう人だよ。

こういうところを、好きになったの。

< 289 / 386 >

この作品をシェア

pagetop