パーフェクト・インパーフェクト
「ところで人生初のアルコールはどう?」
「えー、わかんない。すごいおいしいとは思えないけど、ぜんぜん……うん、まずくない。まだあんまり飲んでないけど」
フルートグラスを指でなぞる。
水滴がひんやりして気持ちいい。
ほんの少し、体がポカポカしてきている気がする。
「なんか、ノンアルビールをしんどそうな顔して飲んでたのが懐かしいよ」
彼が思い出すように目を伏せて、笑った。
「きっとすごくいい子なんだろうなって思った。それはまあ、MVの撮影のときにはもう思ってたんだけど」
わたしが彼との思い出を持っているのと、同じように。
彼も、彼の世界で、わたしとの思い出をちゃんと持っているのだということ、そんな当たり前のことをいま知って、感動さえしてしまう。
彼が積み重ねてきた歴史、
置いてきた過去、
大切にしまっている思い出、
ぜんぶ、きっとこれからもわたしには手を伸ばせないものだけど。
それでも、ゆっくりでも、少しずつでも、わたしも彼の人生の一部になっているのかと思えて、
わからない、
でもそう思えて仕方なくて、
――心が、震えている。
「最初にデートに誘ったとき、もちろん下心はあったよ」
「……もしかして酔ってる?」
「うん、けっこう酔ってる。顔に出ないタイプなんだって前にも言っただろ」
くすくす笑う。
酔うと笑い上戸になる人だということも思い出した。忘れていた。
なんで忘れてたんだ、と疑問に思って、すぐに気づく。
彼はきょうまで、わたしといっしょのときは、ぜったいにお酒を飲まなかったんだ。
わたしが未成年で、飲めないから。
たぶん、ずっと、合わせてくれていたんだ。
こういう人だよ。
こういうところを、好きになったの。