パーフェクト・インパーフェクト
「……そうだな」
数秒たってやっと、押し黙っていた彼が言葉を落とした。
信じられないほど重たいそれが、メキメキと床に亀裂を作っていく。
「俺は、きみとは違う人間だよ」
はじめて、そんなふうに呼ばれた。
きみ、って。
ショックだった。
苗字であろうと、名前であろうと、彼は出会ったときからずっと、わたしを固有名詞で呼んでくれていたから。
「俺はきみが思ってるような優しいやつじゃないよ。言っただろ、ほんとは自分でもびっくりするくらい冷酷な人間だって」
「……ちが、」
「違わないんだろ? いま、自分でそう言ってたよ」
いつもより強い口調。
冷えきったような声色。
でも、これは、怒っているのとはきっと違う。
「ち……がう、ちがう、俊明さんは冷たくない」
「もういいよ、大丈夫」
なにが、大丈夫なの?
ぜんぜん大丈夫じゃないよ。
「やだ……だって、冷たい人はあんなの持ってない」
「なに?」
「家族を捨てたと思ってる人は……家族写真なんて持ってないっ」
ほとんど絶叫していたと思う。
胸のなかでわんわん泣く意味不明のわたしを、彼は抱きしめてはくれなかった。
「なにを、見たのか言って」
かわりに、そう、恐ろしいほどに淡々と言った。
あれはきっと彼の最高機密。
もう終わりだと感じた。
わたしは、踏みこんではいけないところに踏みこんだんだ。
――踏みこんではいけないところって、なに?
「……見たもの、持ってくるから、待ってて」
場所は知っている。
クローゼットのいちばん奥。
よくこんなものを見つけ出せたものだよなって、自分でも感心する。