パーフェクト・インパーフェクト
「トシは本当になにも言わないやつだから。特にその子のことに関しては、アキなんかが聞いても上手くはぐらかされることが多かったし。でも特別なのは見ててわかった。それでもつきあってないことも、なんとなくわかった」
「うん、衣美梨ちゃんもけっきょく最後まで『つきあってない』って言い続けてたよ」
いったいどういうことなの。
篠岡衣美梨さんって、いったい何者なの。
「杏鈴ちゃん、バンドに『スウィーティー・イエロー』っていうファンクラブがあるのは知ってるかな? 衣美梨ちゃんは、その創設者なんだ」
季沙さんが思い出を掘り起こすように目を伏せた。
ふたりのラブストーリーは、とてもシンプルな物語だった。
バンドマンとファン。
とても簡単な出会い。
「衣美梨ちゃんのおうちはすごくお金持ちというか、端的に言えば“良家”でね。ふたりがつきあわなかったのも、そのせいなのかはわからないけど……けっきょく衣美梨ちゃんは親御さんの決めた相手と結婚しちゃって。大学出てすぐだったから、もう3年くらい前になるのかな」
聞きながら、手紙の内容を思い出していた。
ほかの人との結婚を、最良の選択だと書いてあった。
すべてを捨てる勇気がなくてごめんなさい、と最後に添えて。
ふたりは、つきあわなかったんじゃない。
きっとつきあえなかったんだ。
衣美梨さんの親御さんが、家柄が、きっと“バンドマン”との恋愛は許してくれなかったんだ。
実際のところは当人どうしにしかわからないけど、そう考えると、すべての辻褄が合う。