パーフェクト・インパーフェクト
「ああ、大変、お父さんと茉里子に連絡しなくっちゃ!」
「まだ帰ってきてない?」
「そうなの、ふたりとも夕方ごろには帰ってくるはずなんだけど」
「そうなんだ。じゃあまた出直すよ」
踵を返そうとした彼を、お母さんが引き止めた。
「いいから、中で待ってなさい」
「いや、いいよ、長居するつもりないし」
「ダメよ、女の子連れてるんでしょ。自分の都合で振り回すんじゃありません」
彼のそれとよく似た形にそっと目くばせをされて、はっとする。
完全に傍観者のつもりでいてしまっていた。
「は、は、はじめましてっ、上月杏鈴といいます!」
「あらあら、まあまあ、はじめまして。俊明の母です」
母です、
たった、それだけ。
ふつうの自己紹介だけど、
でも、ぜんぜんふつうじゃない、
わたしにはそれが、かけがえのない一言に聞こえて仕方なかった。
「つきあってる子なんだ」
彼は簡単に言った。
お母さんは「まあ!」と嬉しそうに笑った。
わたしはそんなふたりのあいだで、カチコチに固まるしかなかった。
「上月杏鈴ちゃん、なんだか聞いたことがあると思ったら、テレビで見ることがあるんだったわあ! 茉里子がたまに雑誌も買ってるんじゃないかしら。あ、茉里子ってね、このコの妹なんだけど」
「えっ!」
「実物だともっときれいなお嬢さんなのねえ。はじめて連れてくる女の子がまさかモデルさんだなんて失神するかと思っちゃったワ」
お医者さんの奥様だというから、もっと厳格でクールな母親を想像していたのに。
ものすごくチャーミングなお母さんで力が抜けた。
腰が砕け散りそう。
彼ともウン年ぶりに顔を合わせたとは思えないよ。
ぜんぜん……ふつうの、親子に見えるよ。