パーフェクト・インパーフェクト


朗らかで、穏やかで、無邪気に見える女性だけど。

この人だって、押しつぶされそうな寂しさと、長いあいだ闘ってきたはずだ。


自分のお腹から産み落とし、大事に、愛をもって、時に厳しく育て上げてきた、世界でたったひとりの息子。

そんな存在ともう二度と会えないかもしれないと覚悟するのは、きっと生半可なことではなかったと思う。


「意地の張り合いはやめなさい」


母親らしい言葉に、そうだねと、彼は小さく相槌をうった。


「でも俺よりおやじのほうが頑固者だよ」

「なに言ってるの。いい勝負か、あなたのほうが相当な頑固者でしょうに」

「そうかな」

「お父さんはいつか音を上げて帰ってくるはずだってタカをくくってたのよ。なのにもう何年も……本当に何年も帰ってこないどころか、連絡すら寄越さなかったじゃない」

「そりゃ、『帰ってくるな』って言われてたし」


そのせりふを聞いて、彼ってほんとに相当な頑固者なのかも、と思った。


意外と負けず嫌いなのかな。

いや、ぜんぜん意外じゃないか。


彼は、勝算のない勝負は、ぜったいにしなさそうだ。


「でも実際、俺のほうが、わがまま聞いてもらった立場だったんだよな」

「……そういうわけでもないわよ。お父さんも、親だからって子どもの将来を縛っていいはずなかった」

「いや。母さんにもかけなくていい心労かけたと思ってる。本当にごめん。ずっと謝れずにいたことも、ごめん」


お母さんの目に光が宿った。

だけど、涙はこぼさない。


母親は、とても強い生き物だ。

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