パーフェクト・インパーフェクト
「つきあってくれてありがとう。長々とごめん」
夏の日差しにじゅうぶん温められた車内で、エンジンをかけながら、彼が眉を下げた。
まだ生ぬるい冷房の風を顔に受けつつ、ウウンと首を横に振ると、右側からそっと頬を撫でられる。
引っぱられるみたいに顔を向けたら、すぐに、くちびるどうしがくっついた。
軽いやつ。
「……いきなり」
「なんとなく、触りたくなって」
今度は手が繋がる。
彼の左手と、わたしの右手。
指先を絡めたままシフトレバーを握るからおかしなことになってしまっている。
でも、うまいこと、するんだな。
ベーシストの指先は本当に器用だ。
「なんだかんだ夜になっちゃったけど、あともうひとつだけ、行きたい場所があって」
「うん?」
「よければついでにつきあってほしい」
静かにアクセルを踏みこんだ彼の手、シフトレバーの上に置かれたままのそれを、ぎゅっと握り返した。
「うん、どこにだって行くよ」
ありがとう、と。
ここ最近だけで、もう何度言われたかな。
言われるたびに泣きそうになるのはどうしてだろう。
すごく、うれしいのに。
同じだけ、どこかがとても、切なくて。
彼のためになにかしたかった。
どんなちっぽけなことでもいいから、彼にとってわたしが、なにか価値のある存在になれたらと思っていた。
いまこの瞬間、ほんの少しでも、そうなれているのかな。
彼がわたしと出会った意味、ちゃんと、あったかな。