パーフェクト・インパーフェクト


「――ここは……?」


太陽のとっぷり沈んだ、藍と黒のあいだのような世界。

鉄のかたまりのなかから星空の下に飛び出すと、目の前にあったのは、浅くない歴史を感じるような楽器屋さんだった。


「家出少年だった俺がお世話になった場所」


あまり親切とはいえない説明をして、ためらいもせずに足を踏み出す。

いまどき自動じゃない、ノブのくっついた扉を引っぱった彼に続いて店内へ足を踏み入れると、埃のようなにおいが鼻の奥に充満した。


入り口付近にはレコードやCDがずらりと並んでおり、そのすぐ隣には、楽譜のようなものがぎっしり詰まった棚がそびえ立っている。

ガラスケースのなかには、学生時代に吹奏楽部のコたちが使っていた気がする、見覚えのある金色の楽器たち。

ギターなのかベースなのかわからないけれどそれっぽい形をした楽器売り場をすり抜けた先に、やっと会計のカウンターがあって、そこになんだかデカイ図体の強面(こわもて)なお兄さんがいた。


「ワキさん」


彼の呼びかけにお兄さんが顔を上げる。

“ワキさん”。

たぶん、まだ勤務中だというのに、堂々と煙草をくわえているよ。


「……おお?」


ワキさんとやらは目を丸くすると、すぐ手元の灰皿に煙草をジュッと押しつけ、その強面に似合わないクシャッとした笑顔を浮かべた。


「俊明かよ、びびるじゃねえか。ずいぶん急だな。ほかのやつらは?」

「いや、きょうは俺だけで。ちょっと……実家に用があって」


今しがた火を消したばかりのくせに、また新しい一本を取り出す。

ワキさんは目を細めて彼を見つめると、そうかとつぶやき、年季の入っていそうなジッポで先端に火を点けた。

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