パーフェクト・インパーフェクト


「実はね、衣美梨さんに、会ったの」


彼が言葉を失った。
音もなく唾を嚥下する。


「……黙っててごめんなさい」

「いや……」


ああ、ダメ、指先まで震えてきた。


「彼女はまだ、とてもあなたのことを、好きだよ」


バカだから言葉が思い浮かばなくて陳腐な表現を使ったけど、好きとか、嫌いとか、愛しているとか憎いとか、もうそういう次元じゃないんだと思う。


彼女も、彼も。

そういう次元なんかもうとっくに通り過ぎて、もっと深い場所で、きっとお互いを想いあっている。


「きっとまだ間に合うよ」

「……なに言ってるんだよ」

「理性を失ったら自分が自分じゃなくなるみたいで怖いって、前に言ってたことがあるけど、その理性を守るために大切な誰かを本当に失っちゃうことのほうがずっと怖くて、しんどいよ。しんどかったでしょう? ほんとは、後悔してきたんでしょう?」


彼が運転席を降りてこっちにやって来た。

そうして、なにか言いかけて、さんざん迷って、やめた。


いま、なにを、言いかけたの。

< 362 / 386 >

この作品をシェア

pagetop