パーフェクト・インパーフェクト


「俊明さんを好きになってよかったなってほんとに思う。はじめて好きになった人が俊明さんで、わたしはすごく幸せな女の子だなって思ってる」

「……きみはほんとに、俺を買いかぶりすぎだよ」

「そんなことないよ」


できれば誰のことも傷つけたくなくて、争いごとを生み出したくなくて、だから、すべてに対して優しくしすぎてしまう人。

きっと、傷つくのは自分だけでいいと、本気で思っている人。


世界でいちばん、優しい人。


「あなたはすごい人だよ。上月杏鈴が人生ではじめて好きになった男であることを、これから誇って生きていっていいよ」


おどけて言ったつもりだったのに、最後の最後に涙声になってしまったのが、彼にはバレていないといいな。


「……うん、ありがとう」

「わたしも、ありがと」


ドアの取っ手をおもいきり引っぱった。

ぬるい夏の夜風のなかに飛び出す。

サンダルが、ポコンとまぬけな音を生む。


ふり返らないで改札まで走った。

彼の車がいつ発進したのか、最後に彼がどんな顔をしていたのか、どうしても、見届けることはできなかった。




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