パーフェクト・インパーフェクト
トイレに立ったのは少しの尿意のせいもあったけど、ずっと火照りっぱなしの顔面をどうにかするためでもあった。
ぱちんと音がするくらいの強さで両頬に触れてみる。
熱が出ているんじゃないのかという感じの温度で、我ながら情けなくなる。
お酒なんか一滴も飲んでいないのにいったいなんなんだこれは。
風邪でもひいているのか?
わかっているくせに何度も自問自答して、
いやそんなわけないと首を横に振って。
この鏡に映っているのは、とてもじゃないけれど、みんなの知っている上月杏鈴じゃないよ。
だけどわたしの知っている上月杏鈴でもなくて、じゃあ誰なんだと考えてみるけど、やっぱり顔を見たら見た目はまさしく上月杏鈴で、混乱した。
わたし、さっきからなに意味わかんないことばっか考えているんだろ。
自分で言うのもなんだけど、本当に男の子に免疫がないの。
モデルって女の子どうしでお仕事することが多いし。
ファンのコも、やっぱり圧倒的に女の子が多いし。
正直、デートに誘われた経験がまったくないわけじゃないんだ。
男の子から連絡先を聞かれた回数がゼロってわけでもない。
だけどこんなふうに、からかうみたいに、それでいて本気の姿勢で、急にぐっと距離をつめられたことなんか一度もなかった。
こういう大人の駆け引きみたいなの、いままでにされたことなんてなかったんだもん。