冷徹副社長と甘やかし同棲生活
 
 あの店から離れるにつれて、歩く速度もゆっくりになった。飲食店街を抜けると、人気のない道に出る。
 私たちはしばらく無言だった。車の走る音が沈黙をごまかしてくれている気がした。


「――柏木」

 一駅分程の距離を歩いたころ、椿さんは道の途中で足を止めた。


「……はい」

 すこし前を歩いていた彼は、振り返って私と顔を合わせる。
 切なそうに、瞳が揺れている。初めてみる表情に、目も心も奪われた。


「定時後マーケティング部に行ったが、お前以外はまだ仕事をしていた。同じ会社にいるんだ。嘘はすぐにばれる。……もう二度と、俺に隠し事をするな。」

「はい。昨日は嘘をついて、ごめんなさい……」


 
< 253 / 321 >

この作品をシェア

pagetop