冷徹副社長と甘やかし同棲生活

 椿さんはしばらく黙っていた。というより驚いて声がでないように見える。
 彼にとって"実家に帰る"ということは、何か特別な意味があるのだろうか。


「……兄さん、俺たちの約束を忘れてはいないよな?」

「もちろん。その上で話をしてる」

「まさか、親父か母さんに何かあったのか?」

「察しがいいね。その通りだよ。実は、親父は……末期ガンなんだ」


 椿さんのお父様が、末期ガンだなんて……会ったことのない私でさえ、雷に打たれたような衝撃を受けている。椿さんはきっと、もっと辛い思いをしているだろう。


 彼の気持ちを考えると辛くて、顔を見ることができなかった。




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