冷徹副社長と甘やかし同棲生活
「そう“見えた”?」
「俺が中学二年のとき、親父が突然小さな男の子を連れてきた。“事故でなくなった友人の子供で、養子にしたい”と言ってな。不審に思った母さんは、親父の身辺調査をした。その結果、親父の愛人の子供だったよ。その子供が……葵衣だ」
「そんなことが……。葵衣くんのお母さんは、今……?」
「病気で亡くなったそうだ。身よりのない葵衣を放っておけなかったんだろうが……親父の嘘がバレた瞬間、家族は崩壊した。といっても、壊れたのは母さんだけだったが」
椿さんのお母さんは、夫の秘密を知っても離婚を選ばなかった。
いい妻でいようと、よりいっそう家族を支えようとした。けれど、家族の中に葵衣くんは含まれていなかったらしい。
「母さんは、親父を献身的に支えていた。兄さんと俺を愛情を持って育ててくれた。ただ、葵衣のことは、存在そのものを無視していた。いわゆる、ネグレクトという虐待の一種だ」