冷徹副社長と甘やかし同棲生活
 椿さんと一緒に生活するようになって、時々感じていた違和感。
 葵衣くんの言葉の意味。すべてつながって見えた真実は、ひどく悲しいものだった。


「俺は両親を許せないが、嫌いにはなれない。親父の最期の夢を叶えたい気もするが、葵衣のことを考えると……」

「会社のことは保留にして、まずはお父さんに会いに行っては如何ですか? とても喜ぶと思います」

「そうだな。このまま死別すれば後悔が残りそうだ。さっそく来週行ってみるよ。……旅行は申し訳ないが、保留にしてもらえるか?」

「旅行はまた、いつでもいけますよ」

「ありがとう」

 椿さんはお礼を言うと、私を強く抱きしめた。
 私はなぐさめるように、背中をずっとさすっていた。


――翌週の土曜日。今日も例外なく、雨が降っている。
 いつもよりも空がどんよりと暗く感じるのは、気のせいだろうか。
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