Elevator Girl
「……ごめん…」

「ごめん、って何に謝ってんの。
…悪いのは俺だろ」


「ちがう!」


そんな風に笑わないで、
そう言って鈴木が胸に飛び込んできた。


「わたしがダメなだけなの、くぼのせいじゃない…」


「…おい」


周りの目が気になって、とりあえず引き剥がそうとする。

でも、背中に回された手の力は逆に強くなった。


「……鈴木、まず店から出ないと」



耳元で諭すと、小さく頷いて素直に従った。






鈴木は黙ったままうつむいている。

ただ、その手は俺の左袖を握りしめたままで、

いつもと違う横顔に、何を言えばいいのか分からない。



戸惑ったままでいると、隣から小さな声がした。


「…どうしたらいいのか分からなくて」

握りしめる力が強くなった。


「…いまさらスキってきづいたら、どうしたらいいの?」



驚いて足を止める。




「……すき、って…俺のことが?」



「だって、ずっと一緒だったのに、毎日一緒にいたのに、

あんな一回の、…キスで。バカみたいじゃない…」




甘えて、すねた様に話す言葉が信じられなくて、

ふせた顔をのぞきこんだ。


「…酔ってるんだろ」


冗談ぶって言いながら、声の震えを押さえるのに必死だった。


否定の言葉が欲しかった。                                                                                                         
< 20 / 67 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop