さよならメランコリー
待ち合わせをしただけなのにもう胸いっぱいかもしれない。
幸せに浸りながら「10分前だよ」と返事をすると、コウキくんは「えっ」と声をあげてから顔をしかめた。
「寒いんだから今度からギリギリに来て! 風邪ひいたらどうすんだよ」
「……今度から?」
「そう、またこういう機会があれば!わかった?」
あんまりにも平然と言いきられてしまって、コウキくんが言う〝今度〟に特別な意味が含まれていないんだってことを理解した。もう少し意識してくれたっていいのにな。こっそり頰を膨らます。
「トウカ〜返事は? ギリギリにきて?」
「……コウキくんだって待ち合わせ10分前だもん」
「俺はいいんですー」
「よくないんです〜」
私を覗き込むコウキくんにドキドキしながらも、ぷいっと顔をそらす。
待ち合わせ時間ギリギリに来ちゃったら、私を見つけてくれるコウキくんも、私のために走ってきてくれるコウキくんももう見れない。それは嫌だなと思うから。
「じゃあ今度からトウカと遊べないなー残念だなー」
「え!なんで、やだ!」
「だったら今度から待ち合わせぴったしに来るって約束してくださーい」
「待ち合わせぴったしに来てなんて言う人なかなかいないよ……」
せめて5分前とかだと思う。ぴったし目指して出発なんかしたら、下手したら遅刻だ。
そう思ってじろりと軽く睨むと、コウキくんは肩をすくめて笑った。
「だって、トウカがもし風邪でもひいて学校休んだりしたら俺が寂しいじゃん」