さよならメランコリー

だけど実際にその好きな人を目の前にすれば、ドキドキさせる一言はおろか予行練習なんて頭の中から綺麗さっぱり吹っ飛んでしまうんだから笑ってしまう。積み重ねても積み重ねても、コウキくんの前では全部帳消しだ。


「ははっ、可愛い可愛い」

「なっ……」


くしゃくしゃと犬か猫を撫でるみたいに髪を掻き回されて、私はもうあついどころじゃない。なんならゆでダコ状態だと思う。

コウキくんの天然タラシもここまでくると本当に天然なのか疑わしくなってきた。


「朝早くからブローしたのに……ストレートだから何もしてないと思ったら大間違いなんだからねっ⁉︎」


嬉しいやら悔しいやらで、出てくる言葉は可愛げないものばっかり。


「もう! 最悪だよ、コウキくん」

「どう見ても言葉と表情が一致してないんだけど」

「何が言いたいのっ」

「口元がにやけてますよ、トウカちゃん」


だって仕方ないじゃない。隠しきれるわけないよ、こんなの。

ほんの数分でこんなにも幸せな気分を味わえるなんて、逆にちょっと怖くなってしまう。このあと何かすっごい不幸が落っこちてきて、それで私、死んじゃうかもしれない。


だけど、どんな不幸を想像したってふわふわ優しい幸せから抜け出せなくて困った。今の私って無敵なのかも。何でもかかってこい!ってそんな気分。
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