さよならメランコリー
「すげーな、女子は髪をまっすぐにするのも大変なわけだ」
「人にもよるけど、私は時間をかけてまっすぐにしてるの!頑張って!」
「ふーん、トウカらしいな」
髪を頑張ってまっすぐにしていることが私らしいってどういうことだろう。聞き返そうとしたけれど、一歩遅かった。
「カナだったら髪なんてそのままで来そうだもんな」
目を細めてやわらかく笑う彼に、ひやりと体が冷えていくのを感じた。背後からいきなり鈍器で殴られた気分だ。
そうだね、カナちゃんだったら髪なんて何もしないで手でささっと梳かすくらいで出てきそう。だって、彼女の髪は何もしなくても昔からずっと綺麗。
そういえば以前、いつもの倍以上の値段がするトリートメントを買ったって言ったら、到底理解できないって顔されたな。私ならもっと違うものに使うよって。
無神経だよね。私だってもともとカナちゃんみたいな髪だったら、あんな馬鹿高いトリートメントなんて買ってないよ。でも私はカナちゃんじゃない。カナちゃんみたいになりたくたってなれない。
カナちゃんには一生わからないよ、私の気持ちなんて。
「トウカ? どうかした?」
「……ううん!なんでもないよ」
なんでもないはずないのに笑っちゃって馬鹿みたい。あんなにも浮かれてたのに、まんまと傷ついちゃって馬鹿みたい。
私といるはずなのにカナちゃんのことを考えてるコウキくんなんて、馬鹿だ。最低最悪、だいっきらい。