さよならメランコリー
「……トウカ、ほんとにどうした?」
作り笑いは何よりも得意なはずなのに、一粒だけ涙がこぼれてしまっていたことに気がついた。なんでもないから、と慌てて拭う。
心配そうな声は、真っ黒で汚い私の気持ちになんてほんの少しも気づいていない。
「ごめんね、ゴミ入っちゃったみたい」
何してるんだろう、泣きたくなんかないのに。これ以上カナちゃんに対して惨めになりたくない。負けたくない。
数分前に戻れたら、髪がどうとかそんな話は絶対にしないよ。だからコウキくん、カナちゃんのことなんて考えないで、話さないで。……今だけは私を見てよ。
なんて、きっとどんな話をしてたってコウキくんは彼女を思い浮かべるんだ。私がそうであるように。
「ねえ、そんなことより早く移動しようよ!」
それ以上涙を流さなかったのはせめてもの意地だった。あっけらかんとした私を見て、コウキくんは「そうだな」と安心したように微笑んだ。
私はほっと胸をなで下ろして、「今日はどこに付き合えばいいの?」となんとか嫌な気持ちを振り払おうとする。気づいて欲しかった、私の嘘を見破って欲しかった。そんな自分勝手にもほどがある思いに蓋をして。
「ああー、えっと」
「なになに?もったいぶらないでよね〜」
「……からかうなよ?」
ほんのりと赤みが差した頰に、嫌な予感がした。
「カナの誕生日プレゼント、一緒に選んでほしくて」