さよならメランコリー
ほんの一瞬の、静止した世界に呑まれる。改札から流れる人の波も、時計台の秒針も、町の喧騒も。すべてが止まる。
そんな世界にグチャッ、と心臓の抉(えぐ)れる音だけが小さく、だけど確かに反響した。
「ごめん、言うの恥ずかしくって」
口の中で呟くようなそれは情けないほどに小さな声だったけど、沈黙が落ちた世界ではそんなの関係なかった。
時計の針が動き出して、人の波が改札から溢れる。分散する。だめ、まだ……まだ動かないで。喧騒だけが、戻ってきているようで遠くに取り残されている。まるでBGMのようににはっきりとしない。
「カナがもらって嬉しいのとか俺あんまりわかんねーし、でもトウカならカナの好みわかるかなって……ほら、親友だし」
やめて、そんな風に柔らかく微笑まないで。
「あっいや、別に特別な意味はなくて、ただカナなんか最近元気ないし、誕生日だからちょうどいいやみたいな……あれ待ってごめん何言ってるかわからないんだけど、その、」
ぎゅううと目頭が熱くなって、せっかく押し込めたものが込み上げてきそうだった。
嫌だ、嫌だよコウキくん。そんな表情(かお)見たくない。何も言わないで、何も見せないで。それ以上はだめだよ。下手くそだっていいから最後まで誤魔化してよ、ねえ。
「いや、違うな、俺……」
ほんのわずかな期待さえも、打ちのめさないで。
「カナちゃんが、すき?」
そう祈りながらも遮るようにその言葉を紡いだ私は、なぜだか笑っていた。